

滋賀県米原市の山あいにある、小さな集落「小泉」。伊吹山の南斜面に広がるこの地には、美しい棚田の風景が今も残されています。ここで活動しているのが、「小泉棚田エコビレッジ推進協議会」です。

私たちが目指しているのは、無農薬・無肥料の自然栽培、ソーラーや薪を使った再生可能エネルギーの活用などを通じた、「食とエネルギーの自産自消」。自然と共に生き、環境に負荷をかけない“循環型の暮らし”を、実践する場づくりです。
ですが、現在この地域にはたった11世帯。人手も若い力も圧倒的に足りていません。特に、かつて耕作されていた棚田の多くは、今では放棄され、草に覆われています。この棚田をもう一度、農地として再生し、持続させることが、私たちの目標です。
とはいえ、今のままの収穫量では農業だけで暮らしていくのは難しいのが現実。だからこそ、棚田のポテンシャルを活かしながら、農業を軸に新しい価値をつくっていける若い仲間が必要です。

小泉の一番の魅力は、なんといっても水と景色、そして豊かな生命の気配です。伊吹山のふもとに位置するこの地には、「おけすい」と呼ばれる清い湧水が湧き出し、田んぼや暮らしを潤しています。南向きにゆるやかに広がる棚田には朝日が差し込み、早朝にはかっこうやアカショウビンの鳴き声が響き渡り、空を見上げればクマタカが舞うこともあります。
棚田では無農薬・無肥料の自然栽培が行われていますが、それでも害虫が少ないのは、この土地に多様な昆虫や鳥たちが共に暮らしているから。自然の循環が目に見えるかたちで息づいているのが、小泉という場所です。
さらに、小泉は“伊吹山の薬草文化”が千年以上にわたって続いてきた場所でもあります。縄文時代の石棒が出土する、太古から人が住み暮らしていた歴史ある地であり、今もその文化と土地の力を活かす取り組みが続いています。
土壌は石灰岩由来のほとんど中性。これにより作物やハーブが育ちやすく、野菜はやや小ぶりながらもすっきりした優しい味。食べると「体が喜ぶ」と感じます。
ここは“観光地としての田舎”ではなく、“暮らしとつながる田舎”。静かで丁寧な営みが日常にある、小さくも確かな幸せに満ちた場所です。

小泉での活動は、まずは田んぼや畑での作業からスタートします。無農薬・無肥料の自然栽培をベースに、地元に伝わる知恵や技術を活かしながら、自給自足の暮らしを実践していく日々。農業初心者でも心配いりません。私たちはもちろん丁寧にサポートしますし、棚田ボランティアで来られているさまざまな方々がアドバイスと応援をしてくれます。どうぞ安心して飛び込んできてください。
でも、小泉の活動は“ただの農作業”ではありません。
ここには「農を起点に、やりたいことを自由に形にできる場」があります。
たとえば、伊吹山の薬草を使ったクラフトビールなどの特産品の開発。棚田で育てている在来種の綿を用いた布製品づくりや、よもぎを活かした鍼灸体験との連携など、地域資源とスキルを掛け合わせることで、いろんなアイデアが生まれています。
再生可能エネルギーにも力を入れていて、ソーラーシェアリングや薪ボイラーの仕組みを取り入れた“エネルギーの自産自消”も実践中。市民農園や自然体験プログラム、味噌づくりやマコモ茶やしめ縄造りなどのワークショップ、地域内外とつながるプロジェクトも広がりつつあります。

小泉での暮らしや活動において、私たちがいちばん大切にしているのは、「どんなことができるか」よりも、「どんな思いで向き合ってくれるか」ということです。
たとえば、「無農薬」は目的ではなく手段。自然や生きものと調和して生きること、その中で自分たちの暮らしを整えていくことに価値を感じてくれる人と、一緒にやっていきたいと考えています。
農業の経験はなくても構いません。年齢、性別、学歴も問いません。「自然の中で暮らしてみたい」「自給自足的な暮らしに憧れがある」そんな思いが出発点でOKです。
ここでは、米や雑穀、野菜、薬草・ハーブ、卵(自然養鶏)などを自ら育て、自ら食べる“自産自消”の暮らしを目指し実践しています。電気も太陽光を中心に、できる限り自給する方向を目指しています。
また、小泉では農業を土台にしながら、自分の得意なことや関心のある分野を掛け合わせて、新しい価値を生み出していける人を歓迎しています。
たとえば、食、エネルギー、ものづくり、教育、環境調査、グリーンツーリズムなど、ジャンルは問いません。
日々の作業に派手さはなくても、心豊かな時を味わえる場所が小泉です。棚田での活動を通じて、未来を育てていける仲間との出会いを、私たちは心から待っています。

「死ぬまで楽しく暮らす」それが、私たちの合言葉です。
「まだ決めきれない」「自分にできるだろうか」そんなふうに迷っている気持ちも、よくわかります。でも、それでも私たちは伝えたいんです。ゆっくりしているうちに、この棚田も、この風景も、この暮らしも、気づけば消えてしまうかもしれない・・・そんな現実が、すぐそこまで来ているということを。
とはいえ、肩に力を入れなくても大丈夫。まずは、棚田の朝を見に来てください。湧水で顔を洗って、風のにおいを吸い込んで、ここでしか感じられない空気を一度味わってみてほしいんです。
「これをやりたい!」という明確な目標がなくても構いません。やりたいことは、ここで見つけていけばいい。話を聞いてくれる人も、知恵を貸してくれる人も、小泉にはちゃんといます。
大切なのは、最初の一歩。
関わりながら、少しずつ“自分なりの農業ライフスタイル”の未来を育てていただければと思います。
注釈:本記事は『令和8年度 水源の里 農業みらいつくり隊員募集業務』の一環で取材した内容を再編集しています